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歴史の隙間に埋もれた漂泊の芸能者たちの実像を追いかけています
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芸能にまつわる歴史を見ていくと、名前に「○○太夫(たゆう)」と付く芸能者が多く存在することが分かります。「大夫」とも書き、「だいふ」「だいぶ」と読む場合もあります。
現代でも、人形浄瑠璃の語り手は「太夫」と呼ばれます。毒蝮三太夫さんやコウメ太夫(小梅太夫)さんなど芸能人の名前に使われることがありますし、時代劇に登場する遊女の呼び名としても耳なじみがあるでしょう。

かつて芸と色に関わる人々の呼称に使われ、今も形を変えて残る「太夫」とは何なのでしょうか。

辞書によれば、もともとは「大夫」で古代中国において官位を表す言葉だったようです。五位の称号で、貴族クラスの身分でした。
それが古代日本の朝廷に伝わり、同じく身分を示す言葉になりました。時代によって変化はあるようですが、基本的に五位以上の男性官吏(国家公務員)がそう呼ばれていまいた。
そのなかで伊勢神宮の権禰宜など、神職にも五位の称号を与えられ「大夫」および「太夫」と呼ばれるようになりました。
そこからの流れで、いつしか官吏ではない神職も、さらに神事として芸能の行う者も「大夫/太夫」と呼ばれるようになったと考えられます。
そして中世には、広く芸能者の呼称として用いられるようになったようです。
(なぜか時代を下ると「太夫=たゆう」率が高くなっていきます)

大ざっぱですが歴史を辿ったところで、自分の頭の整理のためにも「太夫」を分類してみます。
まず大きくカテゴリー分けすると、主に四種の職業に使われていることがわかりました。

イ.神職
ロ.芸能者
ハ.遊女
ニ.役人

「ニ」の役人は一旦脇に置かせていただき、芸能に関連する「イ」「ロ」「ハ」に、もう少し具体的な職種を並べてみます。

「イ」に含まれるもの
・御師(おし/おんし) (下位の神職)
・地方の村で祭祀を行う者 (陰陽道に似た民間信仰。いざなぎ流 等)

「ロ」に含まれるもの
・人形浄瑠璃語り (今も語り役は「太夫」「大夫」を名乗る)
・歌舞伎の女形 (アルキ巫女だった「出雲阿国」以来の宗教的伝統か)
・その他の芸人 (万歳、猿まわし 等)

「イ」と「ロ」の中間にあるもの
・神事舞太夫(しんじまいだゆう) (神事舞の専従者)

「ハ」に含まれるもの
・遊女 (江戸時代の遊郭で最上位の遊女)
 
このなかで遊女たちは、なぜ太夫と呼ばれたのか判然としません。
「遊女の始まりは巫女の一種でもあったので、そこから来ているのではないか?」
「江戸初期の女歌舞伎に由来しているのではないか?」
など、諸説ありますが確定はしていません。

ただひとつわかるのは、この「遊女」と「人形浄瑠璃」に、「太夫つながり」があったことです。
人形浄瑠璃の先祖は「傀儡子(くぐつし/かいらいし)」が行なった人形芝居だといわれています。
傀儡子は各地を放浪する芸能集団でした。(「傀儡師」とも書く)
そしてこの傀儡子と遊女は、ともに「百太夫(ひゃくだゆう/ももだゆう)」という神を信仰していました。百太夫は操り人形の祖神とされている、民間信仰の神です。道祖神にもなっています。
ならば人形使いや遊女は崇拝する百太夫から「太夫」をいただいたのかというと、必ずしもそうではなく、謎は多いです。

ところで太夫といえば、五説経の一つであり森鴎外の小説の題材になった「山椒太夫(さんしょうだゆう)」が有名です。
これについて柳田国男は「山荘太夫とは、“さんじょの太夫”だったのではないか」との説を唱えています。「さんじょ」は「散所」「算所」のいずれかが当てはまると考えられますが、異論もあり、これも謎は謎のままです。

……とりとめなく風呂敷を広げてしまいましたが、今日のところはこの辺で失礼します。


主な参考資料:
廣瀬久也 『人形浄瑠璃の歴史』(戒光祥出版)
川尻泰司 『日本人形発達史・考』(晩成書房)
豊浜紀代子 『娼婦のルーツを訪ねて』(かもがわ出版)
渡辺憲司(監修)『江戸三〇〇年 吉原のしきたり』(青春出版社)
沖浦和光  『「悪所」の民俗誌 色町・芝居町のトポロジー』(文春新書)
塩見鮮一郎 『中世の貧民 説経師と廻国芸人』(文春新書)


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【2017/02/05 23:57】 | 旅芸人よもやま話
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